昨年急逝した若松孝二監督の遺作は、紀州の路地を舞台にした中上健次の小説を原作としている。
差別されてきた場所である路地に生を受けた、半蔵(高良健吾)、三好(高岡蒼佑)、達男(染谷将太=写真右)の3人の若者と彼らはもとより、路地
で生まれたすべての赤子を自分の手で取り上げた産婆のオリュウノオバ(寺島しのぶ=同左)。原作に沿って、3人の物語をオムニバス風に描き、生と死が混在
する、神話的な世界を構築しようとする。
暴力と性を描き続けてきた若松監督にとっては格好の題材で、清も濁ものみ込んでしまう濃密な映
像世界を想像してもおかしくないが、映画はそうなっ
ていない。むしろ、清く潔い。相変わらずの早撮りで、中上の小説の深みには到底到達していない。しかし、美しい主人公たちの瞳と同様に澄んだ印象をもたら
すのは、そのせいばかりではないだろう。
本作と前後して撮影され、昨年公開された「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」に近い
かもしれない。死へ向かう男と一体化し、ドラマをぐ
いぐい押し進めるのでなく、あっけない死と同時に聖性を帯びる男たちを、慈父のように見守る視線を感じるのだ。オリュウノオバのそれと重なるような。
監督自身、昨年10月、東京・新宿で自動車事故に遭い、5日後に死去した。伝説を背負ったまま亡くなった人が最後に立った路上に、生者と死者が交錯する路地を重ね合わせるのは、こじつけに過ぎるだろうか。1時間58分。テアトル新宿など。
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